みなさんこんにちは、トランペッター&ピアニストの曽根麻央です。
今回はアート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズの代表作『Ugetsu』をご紹介しようと思います。
ポスト・ビバップの最高峰として各プレイヤーの熱演を聞く事は出来るだけでなく、ビバップ誕生から20年という月日が経過した事でアレンジやアンサンブルのあり方もバンドとして一つの頂点を極めたと言ってよい作品でしょう。
本編の前に一つ紹介させてください。僕のソロプロジェクト『Mao Sone Plays Standards』の第3作目「Luminous (Piano Solo Ver.)」が公開されました。ぜひたくさん聴いてください。
【Luminous (Piano Solo Ver.) / 曽根麻央】(各配信サイト)
https://ultravybe.lnk.to/Luminous_p
また東京のコットンクラブではこのシリーズを記念したライブが9/2(金)にあります。
【MAO SONÉ "Plays Standards" with DAVID BRYANT & TAKANA MIYAMOTO】
"ジャズ二刀流"と称される若き才能と2人のピアニスト
スタンダード曲の数々を贅沢な内容で届ける一夜
【SCHEDULE】
2022 9.2 fri.
[1st.show] open 5:00pm / start 6:00pm
[2nd.show] open 7:45pm / start 8:30pm
【MEMBER】
曽根麻央 (p,tp)
【Guest】
デヴィッド・ブライアント (p,key)、 宮本貴奈 (p,key)
【詳細】
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/mao-sone/
![ugetsu500.jpg](https://www.jjazz.net/jjazznet_blog/img/blog/ugetsu500.jpg)
Title : 『Ugetsu』
Artist : Art Blakey & The Jazz Messengers
【バンドとして一つの頂点を極めたアート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズの作品】
さてこの『Ugetsu』は1963年のNYバードランドで収録されたライブアルバムです。
日本を意識したタイトルと選曲になっており、当時から日本での人気を感じさせます。
ブレイキーがアルバムの途中で「次の曲はUGETSUといい、日本語でファンタジーという意味です」と紹介しています。おそらく「雨月物語」という1953年には映画化もされている日本の古典から言葉がきていると思います。海外のこの映画の紹介文を読むと「romantic fantasy drama」と紹介されていますので、雨月物語からの意訳かと思われます。「Ugetsu」というシダー・ウォルトンのタイトル曲は後に「Fantasy in D」とタイトルを改められます。
下記メンバーと曲です。
Art Blakey - drums
Freddie Hubbard - trumpet
Curtis Fuller - trombone
Wayne Shorter - tenor sax
Cedar Walton - piano
Reggie Workman - bass
オリジナルLP
One By One (Wayne Shorter)
Ugetsu (Cedar Walton)
Time Off (Curtis Fuller)
Ping-Pong (Wayne Shorter)
I Didn't Know What Time It Was (Richard Rodgers, Lorenz Hart)
On the Ginza (Wayne Shorter)
ボーナストラック
Eva (Wayne Shorter)
The High Priest (Curtis Fuller)
The Theme (Miles Davis)
50年代後期のメッセンジャーズはリー・モーガン&ベニー・ゴルソンの2菅編成サウンドに、ボビー・ティモンズのブルージーでファンキーなピアノに支えられ、ベニー・ゴルソンの類まれな作曲能力によってヒット曲にも恵まれていました。その後フロントがフレディー・ハバードとウェイン・ショーター、そしてカーティス・フラーの3菅編成に拡張されアンサンブルの可能性が増しました。
リズムセクションもシダー・ウォルトンとレジー・ワークマンに代わり、より複雑で繊細なハーモニーを取り入れることが出来るように。メンバーのキャラクターと演奏に合わせるようにウェイン・ショーターというジャズ史上最高の作曲家が名曲を生み出していきました。
レーベルもブルー・ノートからリヴァー・サイドに移った新生メッセンジャーズの初期のアルバムと言ってよいでしょう。
01. One By One
「Art Blakey and the Jazz Messengers」というアナウンスとともに有名なイントロが聴こえてきます。ジャズファンはこれだけでテンションが上がるに違いありません。「One By One」はウェイン・ショーターのファンキーなAABA構成のジャズ曲で、その構成はベニー・ゴルソンやボビー・ティモンズが作り上げたメッセンジャーズ伝統のものに近いと思います。
「Whisper Not」や「Dat Dare」という過去の作品を聴いてもその雰囲気と共通点がわかるでしょう。ブルージーなメロディー、さりげない転調、ピアニッシモからフォルテッシモの大胆なダイナミックス、そしてリーダー・ブレイキーのドラム・フィル、これらはメッセンジャーズの色です。しかし今回は3菅ですからさらに音に広がりがあります。
メロディーが入って最初の1-2小節は通常の音量で完璧な3本ユニゾンなのですが、3-4小節目は狭い音域での3声のハーモニー、そして5-7小節目にはトランペットがオクターブ上のユニゾンというように、徐々に音域も広がりを効かせて音量じゃなく楽器の組み合わせでダイナミックスを表現します。ところがBセクションに入るとフォルテッシモでオクターブユニゾンのメロディーが聴こえてきて、それがドラムのクラッシュとともに急にピアニッシモになり、同じ音域のユニゾンに戻ります。楽器の組み合わせと音量効果を合わせ技で使ったとても効果的なアレンジです。
3菅編成となると誰かがソロをしている後ろでも2本の管楽器でバックグラウンドが演奏できるのでまるでビッグバンドをきているような感覚になります。
02. Ugetsu
シダー・ウォルトンの名曲で「Fantasy in D」としても有名な曲です。12小節のメインテーマが2回トランペットで演奏され、16小節のA7susのVampセクションが毎回挟まれるAAB構成の曲です。
Vampセクションについては以前も詳しく書いたのですが、同じようなコードやリズムパターン、ベースパターンが複数回繰り返されるセクションをいい、ラテン音楽によく見られる形態のことです。50年代からは特にジャズもラテンの影響を受け始め曲にvampセクションがつくことが増えました。コード進行が目まぐるしく変化するビバップの曲に対し、コードの変化が少ないためソリストの自由度と熱量が増していくのがわかると思います。このフレディーのソロは歴史的名演と言えるでしょう。
03. Time Off
軽快なテンポの32小節の曲。ブレイキーらしいヒットがテーマ中に散りばめられ、その間を埋めるようにタムの音が埋められています。これはカーティス・フラーの曲ですがメッセンジャーズのメンバーは本当にブレイキーのスタイルに合わせて曲を作ることが非常にうまいです。各ソロもよくまとまっていてとても聴きやすい一曲になっています。
04. Ping-Pong
非常に特徴のあるドラムパターンから成る楽曲。形式も複雑化していてショーターの曲作りの素晴らしさを体感できる一曲。ドラムパターンの上にハーモニーが聴こえてきて、そのパターンの上で演奏される8小節のメロディーがAセクション。Aセクションに続いて展開される激しく転調を繰り返す12小節のセクションがBセクションとなっていて、これが2回繰り返されます。その後音楽のクライマックスを締め受くるCセクションが8小節繰り返されAに戻るという、ABABCAという奇妙な構成の楽曲です。
一見つかみどころのない、流れるようなメロディーのように聴こえますが、モティーフがはっきりしてそれを展開させているためストーリーが統一された楽曲と言えるでしょう。卓球玉が目まぐるしく転がっていくようなメロディーから始まり、その後に続くモティーフがずっと展開されていきます。ジャズ作曲史上その構成の枠を打破した見事な楽曲と言えるでしょう。
05. I Didn't Know What Time It Was
ジャズ・スタンダード曲。ショーターをフィーチャーしたバラードで演奏されています。こちらもただ単にバラードを演奏しているだけでなく、メッセンジャーらしいダイナミックスのある演奏になっています。
06. On the Ginza
「日本のショッピングタウン」銀座の街をテーマに展開される軽快なショーターの曲。3菅の持つバラエティー豊かなサウンドをとてもよく表現している曲です。各8小節ずつのABCセクションで構成される曲です。各セクションとも共通したモティーフを共有していて曲に統一性があるのはショーターの特徴です。
BONUS. Eva
ボーナストラックですがこの楽曲だけは特に取り上げたいのです。ジャズで作曲を志す人はぜひ研究してほしい名曲です。おそらくこれがこの曲の唯一のバージョンなのが非常に残念に感じています。
ジャズのスタンダードと成るポテンシャルのある曲なのですが、多作であるウェイン・ショーターらしい話です。まずメロディーが非常に美しく、メッセンジャーズのもつダイナミックスも活かせるバラードです。6小節のイントロのついたABABの構成の曲です。バラードですが全てのセクションが3菅編成で統一されていて、そのハーモニーも見事に書かれています。ぜひ聴いてみてください。
それではまた次回。
文:曽根麻央 Mao Soné
Recommend Disc |
![]() Title : 『Ugetsu』 【SONG LIST】 01.One By One |
【曽根麻央LIVE INFO】
8/20 (Sat) @ Nagareyama-city Shogai Gakushu Center
Mizuki Shikimachi & Mao Sone
8/21 (Sun) @ Cabin, Hon-atsugi
Mao Sone, Yoshiki Takahashi, Hayato Yamazaki
8/22 (Mon) @ TBA
TBA
8/24 (Wed) @ Apple, Yokohama
Kurena Ishikawa & Mao Sone
8/27 (Sat) @ No Room For Squares, Shimokitazawa
Mao Sone & Yuji Ito
8/28 (Sun) @ Yatsugatake Jazz Festival
Yucco Miller
8/29 (Mon) @ Mr, Kelly's, Osaka
Yucco Miller
8/30 (Tue) @ Star Eyes, Nagoya
Yucco Miller
8/31 (Tue) @ Star Eyes, Nagoya
Yucco Miller
9/2 (Fri) @ Cotton Club, Tokyo
Mao Sone "Plays Standars"
with David Bryant & Takana Miyamoto
9/24 (Sat) @ Cabin, Honatsugi
Mao Sone, Takafumi Nikaido, Yuji Ito
9/25 (Sun) @ Body & Soul
Mao Sone
9/26 (Mon) @ Apple, Yokohama
Tetsuo Koizumi, Takafumi Nikaido, Mao Sone
9/28 (Wed) @ Nardis, Kashiwa
Mao Sone Trio (feat. Yuji Ito & Hiro Kimura)
9/8 (Thu) @ Cotton Clun, Tokyo
Eri Chichibu
9/10 (Sat) @ giee, Kokubunji
Mari Nakamoto
9/12 (Mon) @ TBA
TBA
9/14 (Wed) @ Jazz Live Bar GLOVER, Osaka
Mari Nakamoto Tour
9/15 (Thu) @ JK Rush, Takatsuki
Mari Nakamoto Tour
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』・2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』・2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』・2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』・2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』・2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』・2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』・2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』・2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』・2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』・2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』・2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』・2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』・2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』
Reviewer information |
![]() 曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |