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曽根麻央 Monthly Disc Review2024.11_Ibrahim Maalouf : Trumpets Of Michel-ange:Monthly Disc Review

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Title : 『Trumpets Of Michel-ange』
Artist : Ibrahim Maalouf


今日は、曽根麻央です。
今日は先日ブルーノート東京にアルバムリリースコンサートを聴きに行ってとても印象的だった
Ibrahim Maaloufの新譜『Trumpets Of Michel-ange』を一緒に聴いてみましょう。
トランペットの革命と言っても良いこのプロジェクトについて少しお話しします。


ブルーノート東京のリリースに伺うと、そこにはドラムセットとアコースティックとエレクトリックのギター2本。
予習なしで伺った私は今日はトリオか、などと呑気にしてましたが、舞台が暗転するとイブラヒムを始めとするトランペットを持った男たちが5人現れ、それに加えてアルトサックス、ギター2人、ドラマーが現れました。
しかもよく見ると全員がクオーター・トーン・トランペットを持っているではないですか。
こんな編成は聞いたことありません。舞台に駆け上がってきただけで心を奪われてしまいました。
そこからはおおよそ70分のトランペットの芸術とエンターテイメントの世界。
これはみんなに体験してほしいと思い、今日記事にしています。



クオーター・トランペットについてはおいおい説明しますが
『ミケランジェロのトランペット』と題されたこの作品、一体どんなコンセプトなのでしょうか?
ミケランジェロはルネサンス期の彫刻家ですが、アートの世界に多大な影響を与えた人物として知られています。

それではこのアルバムはなぜトランペットにとって革新的なのか。

アルバムでもイブラヒムを含む5人のトランペット奏者が参加しています。
イブラヒムがリードし他が呼応する様な場面や、ユニゾンが多く、これはイブラヒムのルーツでもあるアラブ音楽に由来します。
そしてアラブ音楽では半音の半音、微分音(マイクロトーン)とも言いますが、より明確に半音が½(ハーフ)ノートなのに対し、¼(クオーター)ノートを多用します。
本来トランペットは3本バルブですので、¼ノートを出すためには、その音を吹いた瞬間にどこかの抜き差し菅を長く左手指を使って伸ばし¼音低くしてあげる必要があります。なのでアーティキュレーションはそれほどクリアなものにはなりません。


アラブ音楽のトランペット奏者としては私はSamy El Bablyという人が好きなのですが、彼は写真を見る限りでは3本バルブ(ロータリー菅)トランペットで¼音を駆使する人物です。


しかし、イブラヒムの父であるNassim Maaloufが、左手の人差し指で¼音下げられる様、4本目のバルブを付けたことでこの世界にアラビック音楽に特化した4本のバルブのトランペットが誕生した様です。

今回のIbrahim Maarofの『Trumpets Of Michel-ange』では、世界中誰でもこの4本バルブのトランペットが手にできる様にとの構想を得て製作したアルバムになります。
ブルーノート東京ではアルバムの発売と同時にイブラヒムが監修した4本バルブのエントリーモデルが、20万円程度で発売されましたとのことをメーカーさんのお話で伺いました。

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音楽の製作だけでなく、4本バルブトランペットの普及にも尽力しているイブラヒムですが、このアルバムでは他に4人のトランペット奏者とアルト奏者が正確に微分音をユニゾンする事でしか得られない、独特のニュアンスや音楽のパワーを表現することに成功してます。
これは4本バルブでしか表現できない事ですし、4本バルブの習得自体かなり難しい事ですので、彼の考えに賛同して研修を積んだ素晴らしいトランペット奏者が最低でも4人いることを考えると、彼の影響力は今後どんどん大きくなるのではないでしょうか?


4本バルブのトランペット奏者として有名なイブラヒムですが、そもそもトランペット奏者としてクラシック音楽もバリバリにこなす腕前で、パリのコンセルバトワールを卒業しています。
その豊かな音色は現在も健在で、リリースライブでも表現豊かな音色と、この上ないテクニックに驚きました。
正直、私が理想とするトランペットの音とテクニックを持っていたのでそれだけでファンになってしまいました。

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ブルーノートへは、私の師匠で藝大名誉教授の杉木峯夫先生と、新日本フィルのトランペット奏者・杉木淳一朗氏という、パリでイブラヒムの同門の方々と一緒にお招きいただき、少しお話しする機会もいただきました。


素晴らしい演奏をありがとうございました!


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title :『Trumpets Of Michel-ange』
Artist : Ibrahim Maalouf
LABEL : Mister I.b.e.
発売年 : 2024年



アマゾン詳細ページへ


【SONG LIST】

01.The Proposal
02.Love Anthem
03.Fly with Me
04.Zajal
05.Stranger
06.The Smile of Rita
07.Au Revoir
08.Capitals
09.Timeless
10.Au Revoir - Live in Brittany - a capella version




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』2023.10『MAINS / J3PO』2023.11『Knower Forever / Knower』2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』2024.06『Quietude / Eliane Elias』2024.07『Alone Together / Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden』2024.08『The Rough Dancer And The Cyclical Night (Tango Apasionado) / Astor Piazzolla』2024.09『Potro De Rabia Y Miel / Camarón De La Isla』2024.10『Calle 54 / Various』



Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2024.10_Various : Calle 54:Monthly Disc Review

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Title : 『Calle 54』
Artist : Various


こんにちは、曽根麻央です。
今日は2000年にFernando Trueba監督が制作した音楽映画、『Calle 54』のサウンドトラックアルバムについて考察し聴いていきましょう。
今でもおそらくDVDという形で映画を購入することができます。この作品を体験するベストは映画を見ることなので、できたらそちらをお勧めします。
しかしサウンドトラックのアルバムも音楽作品としてレベルが非常に高く、これを知らなければ現代のラテンジャズを体験したことにはならないでしょう。ラテンジャズを世に知らしめた最高の作品だと思います。
映画では、1アーティストごとにアーティストの紹介ドキュメンタリーがまずあり、そのあと1曲それぞれのアーティストの演奏が交互に入っていて、なんと12アーティスト(グループ)を紹介しています。



Paquito D'Rivera
ラテンジャズの重鎮、キューバのサックス奏者のPaquito D'Riveraは自身の作品、「Panamerica」を演奏しています。
Panamericaとは北米・中米・南米を含む地域をさす言葉なので、そのあらゆるアメリカの音楽やカリブの音楽を融合させるPaquito D'Riveraの作曲家としての能力の高さも感じられる曲です。
この曲では様々なアメリカのリズムを聞くことができます。
バラードでクラリネットともにイントロが始まりキューバの歌が聞こえてきます。すると0:43くらいからLulabanche というBataというキューバの楽器を使って演奏されるリズムが登場します。
トランペットとバンドネオンの登場とともに舞台は急にアルゼンチンに移りモダン・タンゴのリズムに切り替わります。
2:24からはいわゆるAfro-Cuban 6/8と呼ばれる軽快なフィールに変わり、2:46からは有名なCha Chaになります。
3:09からはDanzonというキューバの古いポピュラー音楽のフィールになり、デリヴェラのサックスがフィーチャーされます。
3:29からはBossa Nova、4:02からはBataをフィーチャーしてChachalokafunというグルーヴ、そしてそのままグルーヴをドラムが引き継いでトランペットソロからのサックスとのソリが決まります。
その後ウクレレソロではメキシコやヴェネズウェラの音楽を思い浮かばせてくれます。
そこからバンドが戻ってきた時にはコロンビアやヴェネズエラのJoropoのようなグルーヴになります。ベース1拍目を弾かずに2-3拍を低音で強調する独特の三拍子です。

一言でラテンと言っても色々ありますね!
このように様々な国のラテンの要素が詰まった曲になっていて聞き応えがあります。



Eliane Elias
以前彼女のアルバムをこのMonthly Disc Reviewでも取り上げましたね。
素晴らしいピアニスト、シンガーでもあるEliane Eliasは、ここではトリオでBaden Powellが書いてStan Getzが演奏したことで有名な「Samba Triste」を軽快なテンポのヴァージョンで演奏しています。



Chano Domínguez
ラテンジャズ、ジャズ、フラメンコなど幅広いジャンルの音楽を手がけるChano Domínguezは、今回は「Oye Cómo Viene」という楽曲でフラメンコとジャズの融合を見事にデモンストレートしています。何より彼のピアノのタッチがが美しいことにも注目して聴いていただけると嬉しいです。
通常のジャズトリオの編成にパルマ(手拍子)やフラメンコダンス、そしてフラメンコ独特の歌が入り、素晴らしい世界観を作り出すことに成功してます。



Jerry González
Jerry Gonzálezはトランペッター、パーカッショニスト。プエルトリコをルーツに持つニューヨーカー。
「Earth Dance」ではジャズのスウィングとキューバのルンバの「Guaguanco」を見事に混在させて、ジャズもラテンもグルーヴの原点が一緒であることを我々に再認識させてくれている気がします。



Michel Camilo
素晴らしいドミニカ共和国出身のピアニスト、Michel Camilo。
ここではベーシストのAnthony JacksonとドラマーのHoracio El Negro HernandezのCamiloの伝説のトリオで出演しています。
曲はパッションに溢れていて、楽曲としても聞き応えがあるのはもちろんのこと、Camiloの研ぎ澄まされたピアノテクニックは聴いていて驚きを隠せなくなってしまいます。
トリオとしてグループの演奏を重ねているので、素晴らしく息が合っていて、このバンド独特のサウンドというのを確立しています。この作品前半のハイライトと言って良いでしょう。



Gato Barbieri
以前Don Cherryのアルバムを紹介した際に深く考察した偉大なサックス奏者Gato Barbieriの演奏。
「Introduccion, Llamerito Y Tango / Bolivia」ではテナーサックスを演奏しています。
サックス、ピアノ、ベース、ドラム、パーカッションというシンプルな編成ですが、音楽は壮大で、やはりこの偉人が行き着いたどこか境地を垣間見ることができる気がしています。
サウンドトラックの方では映画版では聴けない彼の声のオーバーダブを聴くことができ、音楽としてはこちらが完成系なのでしょう。



Tito Puente
Tito Puenteは、「Oye Como Va」を作曲したことでも知られる、ラテンジャズにおいて最も偉大なパーカッショニストの一人です。
「New Arrival」ではMamboとswingを交互に演奏する楽曲になっています。
Tito Puenteといえばこのグルーヴ!という内容になっています。



Chucho Valdes
キューバを代表するピアニストChucho Valdesは美しい自作曲「Caridad Amaro」を演奏しています。
自身のアルバム『Border-Free』ではトリオで録音していますが、ここではピアノ一本のソロ。
特に高音の力強く伸びのある音色が美しく聴くひとを感動させてくれることでしょう。



Chico O'Farrill
偉大な作曲家、ビッグバンドリーダーChico O'Farrillは、ここでは1950年にチャーリー・パーカーとレコーディングした「The Afro-Cuban Jazz Suites」を演奏しています。
この曲もm1と同じく様々なアフロのリズムを組み合わせて書かれています。
最初はBolero、Mambo、Guanguancoなどのリズムを経由して最高潮へ音楽を誘います。



Bebo Valdes And Cachao
Chucho Valdesの父であり、同じくキューバを代表する歴史的ピアニストBebo Valdesと、最高のラテンベース奏者であるCachaoのコラボ。
「Lágrimas Negras」という曲をキューバの古いリズムDanzonで演奏しているので、キューバの伝統的な音楽が聴けると思います。



Puntilla y Nueva Generacion
Orlando "Puntilla" Ríosというパーカッショニストを筆頭に、今最も人気のパーカッショニストPedrito Martinezなど、当時のニュー・ジェネレーションを率いて演奏しています。
Rumba Guanguancoのリズムで演奏しています。
もちろん最高にグルーヴしていて、これぞトラディショナルのアフロ・キューバン音楽だと言えるでしょう。
我々に本人にはなかなか馴染みのないリズムなので最初は拍子すら取れず困惑するでしょうが、よく耳をすましてクラーベを発見してみてください。そこからラテン音楽の世界が広がっています。



文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title :『Calle 54』
Artist : Various
LABEL : Blue Note Records
発売年 : 2001年



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【SONG LIST】

01.Panamericana
02.Samba Triste
03.Oye Cómo Viene
04.Earth Dance
05.From Within
06.Introducción, Llamerito Y Tango/Bolivia
07.New Arrival
08.Caridad Amaro
09.Afro-Cuban Jazz Suite
10.Lágrimas Negras
11.Compa Galletano
12.La Comparsa




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』2023.10『MAINS / J3PO』2023.11『Knower Forever / Knower』2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』2024.06『Quietude / Eliane Elias』2024.07『Alone Together / Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden』2024.08『The Rough Dancer And The Cyclical Night (Tango Apasionado) / Astor Piazzolla』2024.09『Potro De Rabia Y Miel / Camarón De La Isla』



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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2024.09_Camarón De La Isla : Potro De Rabia Y Miel:Monthly Disc Review

みなさんこんにちは。曽根麻央です。
今日はフラメンコの作品を紹介しようと思います。

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Title : 『Potro De Rabia Y Miel』
Artist : Camarón De La Isla


この作品は1992年の作品でCameron De La Islaというフラメンコを代表するシンガーの作品で、ギターの巨匠、Paco de LucíaやTomatitoが参加している事で知られています。

この作品を僕に紹介してくれたのは、今ではスペインで代表的なフラメンコ・ギター奏者となったYago Santosという友人なのですが、彼から絶対に聞かないといけないフラメンコ作品だと言われました。
また真偽の程は分かりませんが、その友人曰くシンセサイザーでモダンなサウンドを用いた最初のフラメンコ・アルバムであるとのことです。
フラメンコを体験するアルバムとしても素晴らしいのですが、そもそも非常に音楽的でアルバムとしても一瞬で聴き終えてしまう完成度の高い作品ですのでぜひ聴いてみて下さい。


さてTanguillos、Bulerías、Tangos、Rumba、Tarantaの代表的なフラメンコのスタイルで演奏されています。
ちなみにサブスクで聴くと、タイトルの後にこの曲がこのリズムですって()の中に書いてあるので、そこに注目しながら聴けるのもポイントです。

まずフラメンコといって有名なリズムはBuleríasですよね!これぞフラメンコというかっこいいビートです。
通常早い12拍子の場合が多いと思います。
一つ注意として、ここからのリズムについての説明はあくまでジャズやその他のジャンルを演奏している人から見た拍子やリズムの捉え方です。
フラメンコは12拍子を演奏するときに12から数え始めるので、12-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10-11と数えるそうですが、そんなこと僕にはできません!普通に1から数えさせてください(笑)。
スペインでフラメンコのレッスンを受けた時もパーカッションの先生はそうやってわかりやすく教えてくれました。
Buleríasをスペインで習った時はひたすらこのリズムを手と足で体に入れ込むところから始まり、これだけで終わるほどこのリズムは難しいです。
というか日本に普通に住んでると身につかないリズム感だと思います。


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このアルバムのBuleríasの楽曲も基本的にはこのグルーヴが使われています。ぜひ楽曲に合わせてやってみてください。最初は難しいですが...


M5 やM9で用いられるRumbaはいわゆるキューバのルンバではなく、スペインのフラメンコのルンバです。といっても19-20世紀初頭のキューバ音楽の影響を多く受けていて、キューバのリズムをフラメンコの奏者が発展させたといって良いでしょう。
有名な曲ではジプシー・キングの「Volare」を想像するとどんなリズムかわかる方が多いかと思います。
キューバに影響を受けたといっても、キューバ音楽のルンバのようにクラーベ・パターンはありません。
基本的には8分音符が3-3-2のグループで演奏されてグルーヴを作ります。
歴史的にはパコ・デ・ルシアがパーカッション(カホン)をフラメンコに使うようになって今のスタイルになったと言って良いと思います。

M5ではブラスシンセが際立っています。



M9ではフラメンコ・ルンバでは珍しく、まるでキューバ・スタイルかのようにピアノでモントゥーノが演奏されます。



M7のTangosは、少しRumbaとにてますが、Rumbaより遅めの3-3-2のグルーヴですね。グルーヴが3-3-2のまとまりで音楽が動いているのはアルゼンチン・タンゴと一緒です。



M1のTanguillosは調べると色々な解釈があるようですが、聴いた感触だとミディアムな3拍子の曲で、しかし、1-2-3-1-2-3とも取れるし、1-2-3-4-5-6で1と3と5にアクセントがついて、大きな3拍子のようにも聴こえる、サイズの違う3拍子が同時存在するリズムかなと思います。



またM3でもあるTarantaはシンガーとギターリストの息の合い方だけで表現される、拍子のない楽曲のスタイルです。



ちなみに話はそれますが、僕のトランペットとこのアルバムを紹介してくれたYago Santosと二人でTarantaを作った音源があるのでぜひ聴いてみてください。1:46ぐらいからです。



文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title :『Potro De Rabia Y Miel』
Artist : Camarón De La Isla
LABEL : Universal Music Spain
発売年 : 1992年


【SONG LIST】

01.Una Rosa Pa Tu Pelo
02.Mi Nazareno
03.Se Me Partió La Barrena
04.Potro De Rabia Y Miel
05.La Primavera
06.Yo Vendo Pescaíto
07.Eres Como Un Laberinto
08.La Calle De Los Lunares
09.Un Caballo Y Una Yegua




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』2023.10『MAINS / J3PO』2023.11『Knower Forever / Knower』2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』2024.06『Quietude / Eliane Elias』2024.07『Alone Together / Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden』2024.08『The Rough Dancer And The Cyclical Night (Tango Apasionado) / Astor Piazzolla』



Reviewer information

maosona_A.png
曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

みなさんこんにちは、曽根麻央です。
実は今月、人生で初めてタンゴというジャンルを、これまた初めて共演する楽器のバンドネオン奏者・三浦一馬さんのグループで演奏する機会がありました。
本当に勉強になりましたし、メロディーは途中で感情溢れて泣きそうになるほど美しく情熱あふれる旋律で、、、大変素晴らしい経験になりました。
この仕事をいただいた時に、そういえば昔ヘビロテしていたタンゴのCDがあったなと思い出し、今回のチャレンジの勉強のために、演目とは全く違うのですが、改めて聴いてみた素晴らしいアルバムがあります。
今日はそのアルバムをご紹介したいなと思います。


その前に一つ宣伝です。
昨年リリースしたアルバム『PLAYS STANDARDS』のリリースコンサートから3曲、ライブ版を映像でリリースしました。
是非見てみてください!



Reflections in D / Serenade / Wave (LIVE at Keyaki No Hall) - Mao Sone


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Title : 『The Rough Dancer And The Cyclical Night (Tango Apasionado)』
Artist : Astor Piazzolla


さて今回紹介するのは、『The Rough Dancer and the Cyclical Night (Tango Apasionado) 』という、タンゴにジャズやクラシックの要素をふんだんに取り入れた Nuevo Tango=新しいタンゴ の生みの親でもあるアストラ・ピアソラのアルバムを紹介します。


バンドネオン奏者、作曲家のアストラ・ピアソラはアルゼンチン生まれですが、4歳から15歳まではアメリカのニューヨークで過ごしたそうで、ジャズもたくさん聴いていたようです。
この頃のジャズ、1925-35ぐらいですかね、といえば、ルイ・アームストロングの26年の「Heebie Jeebies」、28年の「West End Blues」などのヒット・ソングがあります。
デューク・エリントンも「Mood Indigo」(1930)、「Don't Mean A Thing」(1932)、「Sophisticated Lady」(1933)、「Solitude"」(1934)、「In a Sentimental Mood」(1935)などのジャズの名曲を次々と生み出した時期でもあります。


その後アルゼンチンに移住し、ピアソラはタンゴに興味を持ちました。そしてパリに留学するなどしてクラシック音楽の理論なども勉強した様です。
現在ではピアソラの音楽はクラシックの音楽家に取り扱われることが多いので、根本的にラテンやジャズの音楽というよりは、クラシックのように決め事の多い音楽といえます。


ピアソラは自身の有名な五重奏を結成すると、バンドネオン、ヴァイオリン、ピアノ、コントラバス、エレキギターという変わった編成で演奏活動の軸を定めることになります。
エレキギターってこの音楽にいること自体が意外だと思うんです。エレキギターのサウンドがあることが、今聞いてもピアソラの音楽を斬新なものにしている気がします。


参加メンバー
Astor Piazzolla - Bandoneon
Pablo Zinger - Piano
Fernando Suarez Paz - Violin
Andy Gonzales - Bass
Rodolfo Alchourron - Electric Guitar
Paquito D'Rivera - Alto Sax, Clarinet


今回紹介するアルバムはこの五重奏の編成にパキート・デリヴェラというラテンジャズの巨匠が数曲サックスとクラリネットで入っています。
またアンディー・ゴンザレスというラテンジャズのベーシストが参加していて、全体的にベースの音色や音楽のコアがはっきりしていて、とても聞きやすいです。


先ほどエレキギターがピアソラの音楽をユニークなものにしていると言いましたが、ヴァイオリンもクラシックにはない独特でミステリアスなニュアンスで、この音楽をスペシャルなものにしています。
そしてピアソラのバンドネオンの音色はもちろん唯一無二で、メロディーの歌い方は情熱的で完璧です。
時にリズムに正確に、バラードではリズムの線を超えて感情的にと、メリハリが素晴らしいのです。


この音楽は、きちんと作曲されているという点がとても魅力的です。
きちんと、と言うと語弊がありますが、おそらく書き譜の割合がかなり多い気がします。
個人のソロパートは少なく、アンサンブルで勝負しているアルバムな気がします。
もちろんM3の「Street Tango」ではピアソラやピアニストの素晴らしいソロパートがきける場面もあります。





そしてタンゴ独特の不協和音のハーモニーにも注目していただけたらと思います。
M5の「Knife Fight」の出だしなど、まさにそれです。





このアルバムにはラテンジャズの名手、パキートが参加していますが、登場するとある意味ドキっとします。
彼の特徴的な少ししゃくるようなニュアンスはラテンジャズでは聞き覚えがありますが、こういったメロディーや雰囲気の曲をその専門家のバンドで吹くと"異文化交流感" があり、僕なんかはハッとさせられます。


今月は久しぶりにタンゴを聴いて、初めて演奏する機会があり、改めてピアソラの美しい音楽に触れられてとても嬉しかったです。
ぜひみなさんにも共有したく、今回はピアソラのアルバムを紹介しました。
また次回の投稿をお楽しみに!


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title :『The Rough Dancer And The Cyclical Night (Tango Apasionado)』
Artist : Astor Piazzolla
LABEL : American Clavé
発売年 : 1988年



アマゾン詳細ページへ


【SONG LIST】

01.Prologue (Tango Apasionado)
02.Milonga For Three
03.Street Tango
04.Milonga Picaresque
05.Knife Fight
06.Leonora's Song
07.Prelude To The Cyclical Night (Pt.1)
08.Butchers Death
09.Leijia's Game
10.Milonga For Three (Reprise)
11.Bailongo
12.Leonora's Love Theme
13.Finale (Tango Apasionado)
14.Prelude To The Cyclical Night (Pt.2)




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』2023.10『MAINS / J3PO』2023.11『Knower Forever / Knower』2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』2024.06『Quietude / Eliane Elias』2024.07『Alone Together / Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden』



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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

皆さんこんにちは。曽根麻央です。
今日はLee KonitzとBrad Mehldau、Charlie Hadenの3人の名手が1996年にライブレコーディングした作品を紹介したいと思います。
リリースは1997年にブルーノートから出ていますので、この作品は知っている音楽ファンの方も多いのではと思います。


その前に2つ宣伝させてください。

昨年リリースしたソロアルバム『PLAYS STANDARDS』
そのリリースライブからライヴレコーディングしたものが月末に配信開始になります。
3曲のメドレーとしての配信です。
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・Reflections in D / Serenade / Wave (LIVE at Keyaki No Hall)
 https://ultravybe.lnk.to/liveatkeyakinohall
7/30の20時にYouTubenで先行配信、そして7/31にはApple Music、8/6にはU-NEXTとと続々と配信します。お楽しみに!


そして、昨年プロデュースして好評いただいた作品『CITY POP RENDEZ-VOUS』の続編作品として、7インチアナログ盤『中央フリーウェイ/MUSIC BOOK』が8/3に発売されます。
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・中央フリーウェイ/MUSIC BOOK
 https://ultravybe.lnk.to/OTS-356
前作に引き続きAiriをヴォーカルに、私がピアノとトランペットはもちろん全ての楽器とアレンジ、ミックスを担当しました。
是非、アナログのサウンドで聴いてみてください。

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Title : 『Alone Together』
Artist : Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden


さて今日お話しする『ALONE TOGETHER』というアルバムは3人の偉大なミュージシャンによってライヴ・レコーディングされました。
各トラックが長い作品になりますが、ジャズのスタンダードというプロ、アマチュア、ジャズファンと幅広い層に伝わる共通のテーマを、3人の名手が自由に解釈を広げていくこの作品は必聴盤と言えるでしょう。


コニッツが27年生まれ、ヘイデンが37年、メルドーが70年生まれと、ある意味3-4世代にわたる名手のコラボレーションで、それぞれが各々の特徴的なスタイルやサウンドを音楽史に刻んだ(メルドーに関しては今もなお刻み続けている)存在というのも覚えておきたい。
それぞれのスタイルがあまりにユニークで、そして主張がある。
しかしそれでいて共存できるジャズという音楽の多様性にも改めて注目したい。
また3人とも各々の楽器において最も美しい音を出せる奏者でもあります。
コニッツの優しく浮遊感があり、まるで話しているかのようなニュアンスのサックス、メルドーのタッチ、そしてヘイデンのぎっしりとコアが詰まったベース音、その3つがこの作品では音楽で会話をしています。


全体を通して音楽の要になっているのがヘイデンのベースラインです。
スウィングの曲でもほぼ4部音符を奏でることなく、ハーモニーで重要な音程を、ダウンビートなどリズムで重要な拍をしっかりと弾いています。


通常ジャズのベーシストはウォーキング・ベースといって1小節に4部音符を埋めることでビートとハーモニーを奏でるものです。
しかし、ヘイデンはこれをほとんどこのアルバムでしていません。おそらく、4部音符でこのアンサンブルに参加してしまうと、ビートをしっかりとロックしてしまい、尚且つハーモニーの方向性も明確に示すことになるので、メルドーやコニッツの自由を奪ってしまうのでしょう。
ヘイデンは、全音符や2部音符、付点4部音符などの通常より長めの音価を演奏することにより、他の二人に自由を与えながら、リズムの大枠の要になるダウンビートをしっかり抑え、アンサンブルが崩壊しないように支えていると思います。
なので3曲目のCherokeeのメルドーのソロの後ろで1コーラスだけウォーキング・ベースが登場した時には、その効果は絶大で、スウィングの持つ牽引力を音楽に与えて、通常だったら音楽が進行する上でずっと聞かされるサウンドであるはずのこのウォーキング・ベースを、まるでアクセントのように聴き手に錯覚させるほどです。



そのヘイデンのベースの上で、コニッツがストーリーを語っています。
コニッツは20年代生まれなので、それこそチャーリー・パーカー世代になります。音色としては「Take Five」を録音したポール・デスモンドやアート・ペッパーに近いと言えるかもしれません。
コニッツはビバップやクールジャズ、アヴァンギャルドと時代と共に幅広い音楽性を展開していています。そしてその独特の表現はピアニストのレニー・トリスターノとの作品でも多く聞くことができます。
トリスターノとコニッツは当時では(今でも)かなりユニークなリズムのアクセントやグルーピングを使ってメロディーやアドリブを展開していていました。
アルバムに参加しているメルドーもその影響は受けているはずです。
コニッツのサウンドを先ほど「浮遊館のある」と表現しましたが、しかしそれは圧倒的なリズム感があるからこそ成り立っています。


メルドーもそうです。コニッツに触発されたように、またヘイデンの強力なサポートもあり、ここではリズムをきちんとわかりやすく出すという一般的なジャズピアノの仕事からは解放されていて、伴奏ではコニッツに寄り添って一緒に世界を作るように演奏しています。
ソロではより一層、クラシカルな表現で左手と右手がバラバラのメロディーを演奏する対位法のようなものも用いつつ、和音の解釈も全然違うものに変えながら独自の世界を表現しています。
これはヘイデンが圧倒的にサポートに徹しているからこそできるのです。


すぐ他人のアイディアについてくるベーシストだと、ソリストはアイディアを自由に展開できなくなるのでジャズのアンサンブルにおいてそのバランスは非常に重要です。
ソリストもサポートする側も「Lead&Follow」の関係にいつもあってそのバランスの良い人がアンサンブルできる人といえます。


このアルバムはドラムがいない=音の情報量の少ない特殊な組み合わせで展開されるので、リズムやハーモニーの展開がより明確に聴こえ、ジャズ奏者のコミュニケーションを聴衆が体験しやすいアルバムになっていると思います。ぜひ聴いてみてください。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title :『Alone Together』
Artist : Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden
LABEL : Blue Note
発売年 : 1997年



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【SONG LIST】

01.Alone Together
02.The Song Is You
03.Cherokee
04.What Is This Thing Called Love ?
05.Round Midnight
06.You Stepped Out Of A Dream




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』2023.10『MAINS / J3PO』2023.11『Knower Forever / Knower』2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』2024.06『Quietude / Eliane Elias』



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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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曽根麻央 Monthly Disc Review2024.06_Eliane Elias : Quietude:Monthly Disc Review

みなさんこんにちは、曽根麻央です。
今日はブラジル、サンパウロが生んだ世界的ジャズアーティストEliane Eliasの『Quietude』という作品をご紹介します。
この作品はボサノヴァと彼女の歌にフォーカスを当てています。大変聴きやすく、あまりブラジリアン音楽やジャズに馴染みのない人にも大変おすすめのアルバムです。
もちろん演奏も歌も選曲もアレンジも素晴らしく音楽ファンにも満足してもらえる内容であります。しかし同時にドライヴ、カフェ、リヴィングルーム等、時間と場所を選ばず空間に溶け込むことができる、ある意味完璧なアルバムかもしれません。


その前に一つ宣伝させてください。
僕のレーベルclaudiaで制作したアナログ7インチ盤が、8/3から開催されるシティ・ポップに特化したイベント"City Pop on Vinyl"で発売されます。
昨年のレーベルで発売して好評をいただいた作品『City Pop Rendez-Vous』の続編として制作され、シンガーには引き続きAiriが「中央フリーウェイ」「MUSIC BOOK」とシティ・ポップの代表曲を歌っています。
僕は他すべての楽器を演奏してアレンジ、ミックス、プロデュースをしてます。Airiとこだわって制作しました。ぜひ買ってください!


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『中央フリーウェイ/MUSIC BOOK』7' Analog
https://ultravybe.lnk.to/OTS-356


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『City Pop Rendez-Vous』CD
https://ultravybe.lnk.to/citypoprendez-vous




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Title : 『Quietude』
Artist : Eliane Elias


Eliane Eliasの存在は2000年に制作されたラテン・ジャズ・ドキュメンタリー映画『Calle 54』で知ったという人は多いのではないでしょうか?
リズミカルに、尚且つ繊細に力強くボサノヴァのスタイルでピアノを弾くElianeの素晴らしい演奏が収録されていますが、この映画には他にも、Michel Camilo、Chucho Valdés、Bebo Valdés、Cachao、Gato Barbieri、Tito Puente、Paquito D'Riveraといったラテン・ジャズのスターや巨匠が出演していて、たいへん内容の濃いものです。
ラテン・ジャズを知るのに当時最も適した映像資料であったなと思います。





僕自身、小学生の時にこのドキュメンタリー映画を見てEliane のファンになり、その時から彼女のボサノヴァの弾き方などを映像で見て勉強していました。


実は先月久しぶりにEliane Eliasが来日したので、ブルーノート東京で聴いてきました。
今回はLeandro Pellegrinoという僕のバークリー音楽大学時代の友人をギタリストとして帯同しての来日だったので、その友人との再会も大きな目的でした。
ドラムにはRafael Barataというブラジリアンの名手を、そしてベースには巨匠Marc Johnsonを連れてきてくれました。
Marc JohnsonはかのBill Evansのトリオのメンバーとして長年活躍した人ですが、私生活ではEliane Eliasと結婚していて、実質現在ではEliane Eliasバンド以外でMarcを聴くことはほぼできないでしょう。
それほどまでに、Eliane という存在と彼女の音楽にコミットしているMarcのベースとElianeは、素晴らしい息の合い方をするのはもちろんですが、そもそもブラジリアン音楽でベースはリズムやハーモニーを正しく機能させる上で非常に重要な役割をしています。

プログラムの序盤はステージ全体を使って、上手から下手にかけて、ギター、Eliane、ベース、ドラムと配置していました。
序盤も最高だったのですが、中盤で突如配置を上手側に移動して、グランドピアノの後ろにベースが近づき、ドラマーがElianeと背合わせになる形に舞台のセットアップを変えました。
ドラムセットではなく小さな太鼓とシンバルを組み合わせたパーカッションセットのようなものでした。

そこでElianeが「今からボサノヴァの誕生を再現したいと思います。ボサノヴァはリオデジャネイロの小さい部屋でギターと歌、パーカッション、ベース、ピアノといった楽器を合わせてセッションしていたところから始まりました。」と日本の聴衆に向けてボサノヴァという音楽の説明を少し入れてくれました。
そしてこのセッティングでレコーディングしたのがコロナ禍に発売したアルバム『Quietude』ですと、アルバムの紹介をして、アルバムから数曲、この小さなセットアップで最高のプレゼンテーションをしてくれました。
本当に一生聴いていたかったプログラムでした。

帰ってからはアルバムで収録されているのは幸運だと思い、何度も聴きました。


さて、ボサノヴァという音楽を正しく理解して演奏できるミュージシャンは少ないでしょう。
まず言葉がわからないと演奏する時リズムが合わないように出来ているのが、非常に演奏のハードルを上げています。
さらにそれに合わせて緻密なハーモニーと、世界的にも類を見ない、複雑かつ極上のメロディーを歌い上げるのは容易ではありません。

僕にとってはラテン音楽がそうですが、きちんと聴いて、そいてまた聴いて、研究してみて、現地に行ってみて、ようやく少し演奏できるようになるものです。
ブラジルは残念ながら行ったこともなければ、ポルトガル語は全くわからないのでこれから要勉強です。
もちろんラテン音楽とブラジリアン音楽は共通しているところも多くあるので、ラテン音楽として学んだニュアンスをそのまま活かせる時もあるのですが、やはり各国で独自の音楽のコミュニケーションがあります。

そういう詳細を感じたり気づくことが音楽の楽しさだったり、上達につながると思っています。
そしてこのアルバムは入門アルバムとしても優れているなと思いました。
オリジナルのレコーディングよりも新しいので色々なパートがクリアですし、モダンなので現代的なアプローチの仕方も聴いていてわかりやすいです。

ぜひブラジリアン音楽を楽しく聴いて、この夏を過ごしてみてください。

それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title :『Quietude』
Artist : Eliane Elias
LABEL : Candid
発売年 : 2022年





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【SONG LIST】

01.Você E Eu (You and I)
02.Marina
03.Bahia Com H (Bahia with H)
04.Só Tinha Que Ser Com Você (This Love That I've Found)
05.Olha (Look)
06.Bahia Medley: Saudade da Bahia / Você Já Foi á Bahia
07.Eu Sambo Mesmo (I Really Samba)
08.Bolinha de Papel (Little Paper Ball)
09.Tim-Tim Por Tim-Tim
10.Brigas Nunca Mais (No More Fighting)
11.Saveiros




曽根麻央『Expressions on the Melody of Kokiriko』
富山のこきりこ節をモチーフに展開した17分の作品がデジタルリリース!

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https://ultravybe.lnk.to/eotmok

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』2023.10『MAINS / J3PO』2023.11『Knower Forever / Knower』2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』



Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2024.04_Steve Lacy : Evidence with Don Cherry:Monthly Disc Review

みなさんこんにちは、曽根麻央です。
今日はソプラノサックス奏者としてとても有名な、Steve Lacyの1963年の作品
『Evidence with Don Cherry』を紹介します。

と、その前に今月新しいシングルをデジタル・リリースしました!
『Expressions on the Melody of Kokiriko』と言い、富山のこきりこ節をモチーフに展開した17分の作品です。
録音自体は8年前にボストンで行い、今年の3月にオーバーダブやミックスを都内のスタジオで行い完成させました。
LAを中心に活躍するピアニストIsaac Wilsonや、グラミー賞にノミネートされた素晴らしいヴァイオリニストLayth Sidiqをソリストに迎えました。
ミックスは私が行い、最後までこだわって作った作品になっています。
リンクからサブスクで視聴できますが、OTOTOYではハイレゾ版を購入できます。
https://ultravybe.lnk.to/eotmok
ぜひ聴いてください。



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Title : 『Evidence with Don Cherry』
Artist : Steve Lacy


さて、Steve Lacyは若い音楽家の中では教育者として有名なサックス奏者です。
晩年、ボストンにあるNew England Conservatoryで教えていたこともあり、ボストンで音楽を学んだ人は、Steveはこんなことを言っていた、これがSteveの考えた和音、なんて人づてに伝え聞いた話みたいなものを絶対にいくつか知っていると思います。またそんな話を統括すると、Steveよりもあとの世代の音楽家に尊敬されていた存在という事が見えてきます。
ダニーロ・ペレスやジョー・ロヴァーノはいつも授業で彼の話をしていました。

というように、私ですらもSteve Lacyは先生から伝え聞いただけの存在であまり聴いてこなかったので、そんな人も実際多いかと思います。ただ、やはり改めて素晴らしいミュージシャンであるだけでなく、他のアーティストに影響力のあった奏者ですので、ぜひこの機会に知ってもらえると嬉しいです。


Steve Lacyは1934年生まれ。音楽的にもう5-10年ほど後の人かと思っていましたが、実は世代としてはシダー・ウォルトンやシェリー・ホーン、日本の前田憲男と同い年だそうです。

キャリアの初めは、なんとレッド・アレンなどさらに世代が上のミュージシャンとデキシーランド・ジャズなどを演奏していたとか。その後、セシル・テイラーのアルバムに入るなどアバンギャルドなスタイルに傾倒しますが、Steveを有名にしたのはやはり彼の1958年のリーダー作『Reflections』でしょう。『Reflections』はセロニアス・モンクの曲集となっています。
今作の『Evidence』も同様にモンクの作品を中心に制作されたアルバムなので、この前進となった存在とも言えるでしょう。『Reflections』発売後には実際にモンクのバンドに入る機会もあったようです。


さて今作『Evidence』は、モンクとエリントンの作品をオーネット・コールマンのクァルテット編成で演奏した作品になっています。要するにサックスとトランペットの2ホーン、そしてベースとドラム。ピアノはいないのでコードはそれぞれのソリストとベースの音、またはホーンのアレンジによってのみ表現されます。
メンバーもコールマンのバンドを意識したものになっていて、今回見事なソロをアルバムを通して展開しているトランペットのDon Cherryは、本家コールマン・クァルテットのメンバーですし、またこのディスク・レビューでたびたび紹介している「名盤製造マシーン」ドラマーのBilly Higinsも同様です。
しかし、ベーシストのCarl Brownに関しては残念ながらそれほど多く知りませんでしたし、情報も集められませんでした。


選曲が実によく、モンクとエリントンの作品集ですが、前知識がなければどちらがどちらの作品かわからなくなります。
この二人は世代は違いますが作曲の方向性としては、メロディーの作り方や、大胆な不協和音の投入、ドミナント和音の使い方など、似ているところが多々ありますので親和性がありますね。
エリントン、チャールズ・ミンガス、セロニアス・モンクと50年代までのジャズシーンを牽引した3大作曲家とも言えるでしょう。


1 The Mystery Song
2 Evidence
3 Let's Cool One
4 San Francisco Holiday
5 Something To Live For
6 Who Knows


このうち1と5がエリントンの作品になっています。
「The Mystery Song」は1931年、「Something To Live For」が1933年の作品なので、モンクの上記の曲は15~20年近く前の作品ということになります。
現代ではさほど演奏されない2曲ですが、当時はミュージシャンの中ではスタンダードだったのでしょうか?
特に「The Mystery Song」は2ホーンのアレンジが素晴らしく、原曲よりもモンクが書いたような雰囲気が増している気がします。
1コーラス目と2コーラス目でソプラノはメロディーを取り続けるのですが、トランペットの音域が変わることで、和音をより一層明確にしています。



4の「San Francisco Holiday」ではモンクのピアノ・パートを忠実に2ホーンに置き換えただけですが、元々あった和音を多く削減して、この2音+ベースラインだけで表現する和音の世界がとてもユニークです。
ハーモニー楽器がないというのはミステリアスな雰囲気が増すのだと思います。金管奏者などのソロの時の自由度が増しますし、より幅広い音域を駆使して演奏することを求められるので、技術的にも挑戦が必要になります。



全体の録音としては左からソプラノ、右からトランペットとドラム、センターからベースと完全に隔離されたスタイルのステレオです。今では考えられないミックスですが、この時代の音源ではよくあります。
イヤフォンで聞くと違和感でしかないですが、スピーカーで聴いた時にその効果は発揮されます。

この録音もSteve Lacyのソプラノの音が息づかいまでリアルに収音されていて、彼のユニークな世界観とニュアンスを体感できます。
またDon Cherryのダークでそして明るい相反する性質を持った彼の音もよく取られていて、良いレコーディングだと思います。

パンが完全に分かれているからこそ、6「Who Knows」などでの同時インプロヴィゼーションでは聴いていてこちらの方がアツくなってしまう、そんな録音になっています。



是非、聴いてみてください。それではまた次回お会いしましょう。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title :『Evidence with Don Cherry』
Artist : Steve Lacy
LABEL : Carrere
発売年 : 1962年





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【SONG LIST】

1. The Mystery Song
2. Evidence
3. Let's Cool One
4. San Francisco Holiday
5. Something To Live For
6. Who Knows



曽根麻央『Expressions on the Melody of Kokiriko』
富山のこきりこ節をモチーフに展開した17分の作品がデジタルリリース!

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2024.5.8 (Wed) Out
https://ultravybe.lnk.to/eotmok

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』2023.10『MAINS / J3PO』2023.11『Knower Forever / Knower』2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』2024.04『Voyager / Moonchild』

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2024.04_Moonchild : Voyager:Monthly Disc Review

みなさんこんにちは、マルチインストゥルメンタリストの曽根麻央です。
今日は現代のジャズ/オルタナティヴ/R&Bの名盤 "Voyager"を紹介しようと思います。

このアルバムは聴くとまず音色のクオリティーの高さに驚かされます。音が本当にいい。
みなさんにも是非体感してほしいアルバムです。


その前に一つお知らせです。
4/27(土)は千葉県野田市にある生涯学習センター3F 欅のホールでソロ・コンサートがあります。
昨年9月に発売された『Plays Standards』のリリースコンサートで、アルバムから沢山お届けしようと思います。
なんとそれだけでなく、ライブ収録も兼ねています!ぜひこの機会をお見逃しなく!
東京駅からも約1時間の距離なので都内のオーディエンスの方もぜひ来てみてください。街並みも昔ながらの面影があり、前回仕込みに行った時に観光気分になってしまいました。

チケットはオンラインで購入できます
https://www.gettiis.jp/event/detail/101060/vugPXS5L



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Title : 『Voyager』
Artist : Moonchild


さてMoonchildは2012年ごろから活動を開始した3人組のバンドで、リードボーカルのAmber Navran含めて全員がキーボードやピアノ、シンセサイザー、そしてサックスやフリューゲルホルンなどの吹奏楽器を演奏することができます。まさに多重録音時代に特化したバンドと言えると思います。


例えばアルバムのイントロ 1. Voyager (Intro) をとっても、短いトラックながらも
彼らのこだわりが詰まっていると感じます。
左右に美しく揺れるトレモロがかかったローズピアノの音を中心に、パッドやリードシンセ、ちょっとだけギター、アルペジエーターやシンセベースなどあらゆる楽器が素晴らしいバランスで共存しています。



曲はそのまま 2. Cure に続くのですが、パッドが弾き延ばされている中にギターがリズムを刻み始めます。このギターのリフも細かくパンが振られていて、オーディオ空間の作り方が本当に巧妙です。そしてドラムとシンセベースが入ってくるとグルーヴが一体となり曲が始まります。愛が心の痛みを治すことを見せてあげるという歌で、ふわりと歌っている様に一見すると聞こえるのですが、リズムとイントネーションが素晴らしく、曲全体を歌がリードしています。歌が全体をリードするのは本来あるべき姿ではあるのですがとても難しいことでもあり、シンガー単体でもとても表現力がある事を思い知らされます。



3. 6am
この曲は3-3-2拍子でリズムが構築されてる特徴あるリフの曲です。エンディングにはフルートソロもあります。ソロといってそのままアドリブを乗せているだけではなく、おそらく大枠のソロを録音したのち、必要な部分のハーモニーをオーバーダブしてる様です。楽器の部分にもボーカルの作品作りの様な手が込んだ作風になっています。



4. Every Part (For Linda)
クリスプなドラムビートから始まる楽曲。ボーカルが入ってきた時に急にリバーブが少なくなり乾いた感じになるのがたまらなく素敵です。



5. Hideaway
低音からビート感が強いローズピアノとシンセベースのリフが気持ちよく、しかし歌は囁くようで対照的なMoochildらしい一曲。



6. The List
ローファイなピアノイントロから始まる楽曲。このアルバムの有名曲の一つかなと思います。
その後に続くローズピアノのキックが心地よく、その上でボーカルのハーモニーも見事にアレンジされています。
トランペットとフルートでのホーンセクションアレンジも際立っています。



7. Doors Closing
電車のアナウンスから始まる一曲。カウベルのビートが特徴的。今までローズピアノメインでしたがこちらはウーリッツァーピアノの音色。



そして楽曲は続けて 8. Run Way に突入します。こちらはキックドラムをパッドやシンセベースにコンプレッサーのサイドチェーンというもので繋げて、キックが鳴ると他の楽器の音量が抑えられます。そのダイナミックスと抑揚が作るグルーヴが特徴的です。
最後はマリオのゲームに世界のようなリフに突入して、レコードの回転数を落とすかのようにフィニッシュ。



そしてそこから回転数をあげたようにスタートするのが 9. Think Back。こういった曲同士の繋ぎもとっても上手なアルバムですね。
この曲はドラムのリズムがトップにいて、ピアノとベースが大分重たく後ろの方にいるネオソウル的グルーヴの曲です。



10. Now And Then
16分音符を刻みながら作る3拍子のグルーヴの曲。ドラムとシンセベース、そして手拍子が作る独自のグルーヴで、手拍子がやたら生っぽいミックスになっているのが逆に聴き手を集中させます。



楽曲はそのまま 11. Change Your Mind に突入します。こちらは一気にトーンダウンしてバラードの曲です。



12. Show The Way
コンガやタンバリン、シェイカーといった楽器が加わり、少しだけセッション感の強い作品になっています。そんな中でもAメロがポップで記憶に残りやすい作品かもしれません。



13. Let You Go
おそらく流れるような水の音やシンセの音が絡み合い神秘的な出だしから始まります。こちらも特徴的な、美しいメロディーラインを繰り返し繰り返し、しかしアレンジは変わりながら演奏されるます。それがLet You Goっていうタイトルですが、頭にはしっかりメロディラインが残ってこのアルバムが幕を閉じます。



それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

614ArNWmGCL._AC_SL200.jpg
Title :『Voyager』
Artist : Moonchild
LABEL : Tru Thoughts
発売年 : 2017年





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【SONG LIST】

01.Voyager (Intro)
02.Cure
03.6am
04.Every Part (for Linda)
05.Hideaway
06.The List
07.Doors Closing
08.Run Away
09.Think Back
10.Now and Then
11.Change Your Mind
12.Show The Way
13.Let You Go
14.Cure (instrumental)
15.The List (instrumental)



曽根麻央『プレイズ・スタンダード』

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トランペット/ピアノの"ジャズ二刀流"として話題の曽根麻央がソロピアノで紡ぐスタンダードソング集が全国発売決定!
往年のジャズの名曲をフレッシュな感性で解釈。
抒情性と気品に彩られた曽根のジャズ・ミュージシャン、ピアニストとしてのアティテュードが表現されている作品に仕上がった。


曽根麻央『プレイズ・スタンダード』


1.Reflections in D
2.Serenade
3.In Your Own Sweet Way
4.The Star-Crossed Lovers
5.Wave
6.Stella by Starlight
7.All The Things You Are
8.Luminous (Piano Solo Ver.)
9.I Loves You, Porgy
10.Lady Luck11.Danny Boy
12.Home (Piano Solo Ver.)
13.Some Other Time
14.Ask Me Now
15.The Days of Wine And Roses
16.What A Wonderful World

Mao Soné (piano, trumpet)


曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』2023.10『MAINS / J3PO』2023.11『Knower Forever / Knower』2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』

Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2024.03_Jacob Collier : Djesse Vol. 4:Monthly Disc Review

みなさんこんにちは。ジャズ二刀流ことマルチインストゥルメンタリストの曽根麻央です。
今日は、つい先月末にリリースされたばかりのジェイコブ・コリアーの超大作アルバム
『Djesse Vol. 4』をみなさんにご紹介できることが本当に嬉しいです。

私の肌感からして恐らく音楽史においても最高傑作の一つになってしまったのではないかと思っています。本当に興奮を抑えることができません。彼と同じ時代に生きれたこと、その世界観を見ることができたのに感謝しているぐらいです。
ジェイコブ自身もアーティストとして、一人の人間がコントロールできる範囲を大幅に超えて、現時点での最高地点に到達したと感じました。
また、ジャンルや国境を超えた作品としてもかつてない広大なアプローチを展開しています。


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Title : 『Djesse Vol. 4』
Artist : Jacob Collier


Djesseシリーズは今作で4作品目、そして最終作ということらしいですが、私は自身これまでジェイコブのアルバムはノーマークでしたので、この作品が出会いとなりました。もちろんYouTubeなどでこの素晴らしい存在がいることは十分承知していたのですが、「天才すぎる」音楽故に敬遠していた部分があったのかもしれません。
この作品においても素晴らしい15曲と1曲のカバーアレンジを生み出しただけでなく、ボーカリスト、マルチインストゥルメンタリスト、アレンジャー、録音エンジニア、プロデューサー、そしてミックスエンジニアとしての多彩な才能を見せてくれています。

作品の特徴としてはほぼ全ての楽曲にフィチャーリング・アーティストがいて、その一人一人(またはグループ)のキャラクターが最も引き立つ形で曲が書かれています。
その中でも最も特徴的だったのは「Over You」でした。
この曲では、フィーチャーリングアーティストであるChris Martinが歌う場所ではゴスペル、Aespaという人気K-Popユニットが登場する場面ではK-Popらしいサウンドとなっていて、その変化と多様な音楽への理解は常識を超えています。

またプロデューサー、トラックメーカーとしてのジェイコブの実力も見事で、全体を通して最高のMixを体感できると思います。
低音から高音まで全ての場面で整頓されていて、不必要な音が何一つない状態が常にキープされています。
また楽器の音だけでなくレンガが転がる音や、映画の予告編で使われるような音、ガラスの割れる音など、そういったインパクトを拾ってきてはミックスで上手に使っていて、聴き手を飽きさせることがありません。

シンプルに作曲家、ソングライターとしても素晴らしく、名曲となるであろう曲が何曲も量産されています。ジャズのインストで演奏しても良さそうです。



M1. 100,000 Voices
これはOverture的な存在でさまざまな音楽や環境音、そしてAudience Choirなどが混ざり合いここから始まる広大な世界を提示してくれます。



M2. She Put Sunshine
先ほどのM1から続けて登場するこの曲は少しボリュームはダウンするチルなポップソング。最後の1分で誰にも気づかれないように一度半音上に転調し、最後にまるでDJがレコードの回転速度を下げて遅くしたかのような転調をするのが見事なアレンジとなっています。



M3. Little Blue
美しいバラード曲。静けさの中に時折聞こえる低音のエフェクトが美しく、ジェイコブのこういった音色のチョイスのセンスが光る作品です。



M4. WELLLL
少し、QueenやBeatlesを彷彿とさせるハードロックでコーラスが美しい曲。



M5. Cinnamom Crush
特徴的な音色で始まり終始それがバックグラウンドのように曲の後ろで鳴り続ける面白いサウンドの曲。インタビューでは最初の効果音はレンガがぶつかる音をインターネットで見つけてミックスに入れたといっていました。 



M6. Wherever I Go
Wurlitzer という特徴的な電気ピアノの音でスタートするR&B調の曲。ホーンのアレンジが際立つ作品の一つ。 



M7. Summer Rain
見事なバラード曲です。本来であれば禁じ手とも言えるようなハーモニーを重ねていルバ面もあるのですが、それが緊張を高め、この曲から観客を飽きさせない、アテンションを逃さない素晴らしいスパイスになっています。



M8. A Rock Somewhere
こちらはシタールをフィーチャーした珍しい曲。M7から流れが繋がっていて構成も美しいです。



M9. Mi Corazón
ラテンポップ調の曲。コーラスの間をシンセベースが縫ってベースライン構築してるのですが、こういったディテールも聞いていきたい名曲です。



M10. Witness Me
ゴスペルのような雰囲気を纏った曲。ラップのフィーチャリングもあります。



M11. Never Gonna Be Alone
ジョン・メイヤーをギターソロに迎えた作品。



M12. Bridge Water Troubled Water
唯一のカヴァー曲。至上のコーラスアレンジと、低音から高音まで駆使するジェイコブのコーラス隊に乗っかって、にJohn LedgenとTori Kellyという最高の歌声をフィーチャーしています。



M13. Over You
K-popやR&Bといった世界の音楽のニュアンスを取り入れた、新しい形のワールドミュージックです。



M14-15 Box of Stars Pt. 1 & 2
こちらもワールドミュージックのコラージュのような楽曲になっています。M1で使われた音なども登場するのでストーリー性を感じることもできます。ゴスペル、サンバ、モロッコ、キューバ、ロック、ミドルイースト、インド、レゲトン、EDM、クラシカル、ラップなどの音楽がコラージュされています。




M16. World O World
一曲を通してコーラスのみで構成されていて、古典の讃美歌のようで、しかしハーモニーのセンスは常識を覆すもので、それがスパイスとして人間の耳の栄養となることをあらためて証明してくれる曲です。クラシカル的な讃美歌っぽい曲なのかなと思いきや、ゴスペル風の歌い方も登場し、ジェイコブの独特の歌の世界へと聴衆を引き入れます。



それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title :『Djesse Vol. 4』
Artist : Jacob Collier
LABEL : DECCA
発売年 : 2024年





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【SONG LIST】

01.100,000 Voices
02.She Put Sunshine
03.Little Blue (feat. Brandi Carlile)
04.WELLLL
05.Cinnamon Crush (feat. Lindsey Lomis)
06.Wherever I Go (feat. Lawrence & Michael McDonald)
07.Summer Rain (feat. Maddison Cunningham & Chris Thile)
08.A Rock Somewhere (feat. Anoushka Shankar & Varijashree Venugopal)
09.Mi Corazón (feat. Camilo)
10.Witness Me (feat. Shawn Mendes, Stormzy & Kirk Franklin)
11.Never Gonna Be Alone (feat. Lizzy McAlpine & John Mayer)
12.Bridge Over Troubled Water (feat. John Legend & Tori Kelly)
13.Over You (feat. aespa & Chris Marin)
14.Box Of Stars Pt. 1 (feat. Kirk Franklin, CHIKA, D Smoke, Sho Madjozi, Yelle & Kanyi Mavi)
15.Box Of Stars Pt. 2 (feat. Metropole Orkest, Suzie Collier, Steve Vai & VOCES8)
16.World O World



曽根麻央『プレイズ・スタンダード』

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トランペット/ピアノの"ジャズ二刀流"として話題の曽根麻央がソロピアノで紡ぐスタンダードソング集が全国発売決定!
往年のジャズの名曲をフレッシュな感性で解釈。
抒情性と気品に彩られた曽根のジャズ・ミュージシャン、ピアニストとしてのアティテュードが表現されている作品に仕上がった。


曽根麻央『プレイズ・スタンダード』


1.Reflections in D
2.Serenade
3.In Your Own Sweet Way
4.The Star-Crossed Lovers
5.Wave
6.Stella by Starlight
7.All The Things You Are
8.Luminous (Piano Solo Ver.)
9.I Loves You, Porgy
10.Lady Luck11.Danny Boy
12.Home (Piano Solo Ver.)
13.Some Other Time
14.Ask Me Now
15.The Days of Wine And Roses
16.What A Wonderful World

Mao Soné (piano, trumpet)


曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』2023.10『MAINS / J3PO』2023.11『Knower Forever / Knower』2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』

Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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曽根麻央 Monthly Disc Review2024.02_Lara Downes : Rhapsody in Blue Reimagined:Monthly Disc Review

みなさんこんにちは、ジャズ二刀流ことマルチインストゥルメンタリストの曽根麻央です。

今日はみなさんに、ガーシュウィンの初演100年を記念して今年発表された『Rhapsody in Blue Reimagined』というデジタルリリースのアルバムを紹介します。
ジョージ・ガーシュウィンが当時のアメリカ社会を映し出す作品として完成させた「Rhapsody in Blue」。
1924年にポール・ホワイトマン・オーケストラと自身のピアノのためのジャズ協奏曲としてガーシュウィン自身が初演して以来、世界各国で愛されてきた名曲を、100年を記念して、2024年を生きるアーティストたちがどのようにReimagined=再解釈したのか見ていきたいと思います。
聴くだけでまるで世界旅行をしたかのような作品作りに驚くでしょう。

その前に宣伝です。
4月は福岡にソロで二ヶ所伺います!
ソロアルバム『プレイズ・スタンダード』のリリースライブです。
お近くの方はぜひきてください!詳しくはウェブサイトで!


4/12 (Fri) border -live music & drinks- <福岡>
Mao Sone "Plays Standards" CDリリースライブ in 福岡
Artist: Mao Sone (piano & trumpet)
open 18:30 / start 19:30
【料金】
全席自由 4,000円(税込)※当日は+500円(ご飲食代別※要2オーダー制)
【border 電話予約】
TEL: 092-406-8448 <16:00~22:00(月曜定休日)>


4/13 (Sat) 音楽館Twilight<北九州>
Mao Sone "Plays Standards" CDリリースライブ in 北九州
Artist: Mao Sone (piano & trumpet)
18:30 開場|19:00 開演
【チケット】
前売 ¥3,000 | 当日 ¥3,500
【お問い合わせ】
Office ミスマル 080-6467-1115 または 080-5256-6971
【会場】
〒803-0841 福岡県北九州市小倉北区清水2-10-15 2F
TEL: 093-562-2311 (マックスオーディオ小倉店2F)

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Title : 『Rhapsody in Blue Reimagined』
Artist : Lara Downes


ジョージ・ガーシュウィンは言わずと知れたアメリカを代表する偉大な作曲家で、ジャズスタンダードとなった数多くのミュージカル・ソングだけでなく、アメリカ・クラシックの代表的な作品をいくつも残した人です。すでにブロードウェイの人気のミュージカル作家であったガーシュウィンが、世界的な一流作曲家の仲間入りを果たすきっかけとなった作品がこの「Rhapsody in Blue」です。
ガーシュウィン自身が「巨大なるつぼ = アメリカを写す万華鏡のような音楽」と評したこの作品。
1924年に当時オーケストラを率いていて有名なバンドリーダーであったポール・ホワイトマンのジャズ・コンチェルトを書いて欲しいという依頼から始まりました。期限は5週間。ガーシュウィンはそれまでそのような音楽を書いたことがなく最初は困惑しましたが、ラッキーなことにインスピレーションがすぐ降りてきて、ガーシュウィンは2台ピアノのアレンジでこの作品を書きました。そしてファーディ・グローフェというホワイトマンの専属アレンジャーによってあの有名な、みんなが耳にするオーケストラバージョンに仕立て上げられました。


さて今回の『Rhapsody in Blue Reimagined』は、当時の人種や文化のるつぼ=アメリカを投影した「Rhapsody in Blue 」を、初演100年を記念し、改めて2024年を生きるピアニスト Lara Downesと、サックス奏者でありアレンジャーのEdmar Colonが再解釈をしたプロジェクトです。


Lara Downesはアメリカのアフリカ系女性クラシック・ピアニストとして活躍しているだけでなく、社会活動化として女性やアフリカ系の作品に焦点を当てる活動もしています。
今回の作品では流暢なクラシカルなテクニックや表現だけでなく、アフリカ的なリズム、ラテン的な情熱、またアジア的な表現も必要な作品ですので、彼女のさまざまな文化への理解の深さが表れています。インタビューを聞く限りではジャマイカ系の家族の出身だそうです。


Edmar Colonはプエルトリコ出身のジャズ・サックス奏者として世界的に活躍するだけでなく、エスペランザ・スパルディングのグラミー賞受賞作品『12 Little Spells』やテリ・リン・キャリントンのアルバム『Waiting Game』でもオーケストラのアレンジを務めたり、ボストン・ポップスや、DCのナショナル・オーケストラに委嘱作品を提供するなど、作曲家としても幅広く活躍しています。
私、曽根麻央とは実は、16歳の時からの親友で、いまだに月に30-40分は電話をする仲です。お互いの実家に何度も行ったことがあります。数多くのステージも一緒に演奏してきました。


現在私たちは、100年前とは形は違うけれども、さまざまな社会問題の中に生きています。『Rhapsody in Blue Reimagined』ではそんな現在の社会を投影するかのように再構築されました。


1. Rhapsody in Blue





有名なクラリネットのトリルが聴こえるかと思えば、ここではグリッサンドで駆け上がらずに、全く新しいイントロがこのReimaginedの世界に連れて行ってくれます。長3和音が短3度で降りてくる、ジョン・ウィリアムズのような、ウェイン・ショーターのような世界観で幕を開けます。
ガーシュウィンは「Rhapsody in Blue」ではドミナント7コードと短3度で動かすことで独特のブルージーな雰囲気を作り出していますが、7度の音がなくなるだけでとても斬新な響きになります。
>もう一度トリルがあらゆる楽器から聴こえてくると、ようやくみんなが知るイントロが、しかしオープニングの世界観を残すオリジナルのイントロが展開されます。

ピアノが登場してからしばらくは原曲の再現を行いますが、すぐに中東の雰囲気を予感させるモチーフも登場し始めます。
有名なピアノのフレーズでは同時にボンゴが登場し、ラテンアメリカの音楽が少しずつ顔を見せます。その後ゆったりとしたソンのリズムが現れ、ダニーロ・ペレスやダヴィ・サンチェスのような現代のラテンジャズのセクションが登場します。その上でウェイン・ショーターのオーケストラ作品のような細やかなフレーズが登場し始めます。と思うとリズムは急にさっていき、徐々に次の世界へと向かいます。

ピアノの原曲パートをインタルードとしてを挟み、そのあとは中東の世界観へ一気に観客を連れていきます。

そのあともう一度舞台はラテンジャズに戻ります。繰り返されるベースラインとグルーヴが特徴的です。マイケル・ブレッカーの『Wild Angle』を思わせる曲想が聴こえてきます。

その後、アレンジャーであるEdmar Colonのソプラノ・サックスソロに移ります。
彼のソロはウェイン・ショーター的でありながら、音色やフレーズは私とColonの共通の師である、デイヴ・リーブマンを思わせてくれます。彼のソロで一旦曲は第一クライマックスを迎えます。
と同時にキューバのリズムLulabancheが演奏されます。その上で西洋的なマーチのようなリズムが重なり原曲のモチーフが演奏されます。そのモチーフはさらに複雑なハーモニーへ誘導します。原曲の減5度のピアノフレーズも聞こえてきます。原曲のピアノ譜をもとに展開させた見事なアレンジです。さらに原曲にもある短3度の音形も入れつつ音楽を展開します。

そしてまた一つの区切りがくると原曲のピアノソロに入ります。
このト調のピアノソロの部分は、原曲の中でもピアノの聴かせどころなので、そのままというのは原曲ファンとしてもとても嬉しいですね。そのパートもところどころ中東の鼓笛隊が顔を出します。

そしてピアノパートを終えると通常であれば有名なホ調のバラードのテーマですが、なんと中国の1弦ヴァイオリンと琴によって奏でられる大胆なアレンジになっています。
そのあとに続く原曲オーケストラによる、ホ調のメロディーの提示部にも中国のサウンドがプラスされることで、この曲の新たな魅力と世界観を追加してくれています。

その後の原曲中最も難関と言われるピアノのリズミカルなパートは、Edmarの故郷であるプエルトリコ南部のリズムPlenaになっています。そのままPlenaのリズムの上でPlenaのリズムを奏でながら登場するEdmarのソプラノサックスソロがあります。そのモチーフをフルートが引き継ぎ音楽を原曲に引き戻します。そして音楽は一気に最終局面に向かいます。
原曲に忠実にありつつ独自のハーモニーとPlenaやプエルトリコのもう一つのリズム、Bombaのリズムが加わります。
そして、フィナーレでは原曲と、このバージョンのイントロをの再現を見事に合体させ、クライマックスを迎えます。


2. Study in Blue

これはショパンの夜想曲とガーシュウィンのラプソディーを掛け合わせてアレンジしなおしたものでLara DownesとEdmar Colonのデュオとなっています。
ショパンとガーシュウィンが混じり合う繋ぎのぶぶんはまるでモリコーネの映画音楽のようでとても美しいのでぜひ聴いてみてください。


それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

Lara-Downes-Gershwin-200.jpg
Title :『Rhapsody in Blue Reimagined』
Artist : Lara Downes
LABEL : Pentatone
発売年 : 2024年



【SONG LIST】

01.Rhapsody in Blue (arr. Edmar Colón)
02.Study in Blue (arr. Edmar Colón)
03.Commentary Track



曽根麻央『プレイズ・スタンダード』

71CCYhwTYzL._AC_SL1281_.jpg


トランペット/ピアノの"ジャズ二刀流"として話題の曽根麻央がソロピアノで紡ぐスタンダードソング集が全国発売決定!
往年のジャズの名曲をフレッシュな感性で解釈。
抒情性と気品に彩られた曽根のジャズ・ミュージシャン、ピアニストとしてのアティテュードが表現されている作品に仕上がった。


曽根麻央『プレイズ・スタンダード』


1.Reflections in D
2.Serenade
3.In Your Own Sweet Way
4.The Star-Crossed Lovers
5.Wave
6.Stella by Starlight
7.All The Things You Are
8.Luminous (Piano Solo Ver.)
9.I Loves You, Porgy
10.Lady Luck11.Danny Boy
12.Home (Piano Solo Ver.)
13.Some Other Time
14.Ask Me Now
15.The Days of Wine And Roses
16.What A Wonderful World

Mao Soné (piano, trumpet)


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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』2023.10『MAINS / J3PO』2023.11『Knower Forever / Knower』2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』

Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

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